はじめに|まだ多く残るMovable Typeサイトという現実
現在のWeb制作業界では、WordPressがCMSの主流であることは間違いありません。しかしその一方で、Movable Type(以下MT)で構築されたサイトが今も数多く運用されているのも事実です。
特に、コーポレートサイト・IRサイト・自治体や公共系サイトでは、数年前に構築されたMTサイトが「特に問題なく動いている」状態で放置されているケースをよく見かけます。
しかし、Movable Type 7のサポート終了により、その「問題なく動いている状態」が今後も安全とは言い切れなくなりました。
この記事では、
- Movable Type 7を使い続けるリスク
- Movable Type 9とはどんなCMSなのか
- WordPressとどう使い分けるべきか
- 既存MTサイトは今後どう判断すべきか
を、制作・運用の実務視点で整理します。
Movable Typeのサポート終了の歴史(MT4〜MT7)
Movable Typeのサポート終了は、MT7が初めてではありません。
これまでにも MT4・MT5・MT6 は段階的にサポートを終了しており、そのたびに「更新できないMTサイト」が業界内に残り続けてきました。
簡単に流れを整理すると、以下のようになります。
- Movable Type 4
2000年代後半に多く使われたバージョン。
すでに長期間サポート終了しており、現在ではOS・Perlともに非対応となっているケースがほとんどです。 - Movable Type 5
企業サイトやメディア系で多く採用されましたが、こちらもサポートは終了。
MT5世代のサイトは「管理画面に入れるが、サーバー更新ができない」状態で止まっていることがよくあります。 - Movable Type 6
MT7の前世代にあたるバージョン。
比較的最近まで使われていましたが、現在は公式サポート対象外です。 - Movable Type 7
長く主力として使われてきましたが、現在はセキュリティサポート終了。
このように見ると、MT7のサポート終了は特別な出来事ではなく、これまで繰り返されてきた流れの延長線上であることが分かります。
「まだ動いているMTサイト」が抱える共通点
MT4〜MT6、そしてMT7に共通して見られるのが、
「問題なく表示されているが、実質的にメンテナンス不能な状態」のサイトです。
具体的には、
- サーバーOSを上げるとMTが動かなくなる
- Perlの更新ができない
- PHPや他システムと共存できない
- SSL更新やミドルウェア更新に制限が出る
といった状況です。
これらはすぐにエラーが出る問題ではないため、放置されやすいのが特徴です。
しかし、実際には「何かあったときに手を打てない」状態であり、
MT4〜MT6の時代から同じ問題が繰り返されてきました。
さらに、MTだけの問題ではなく、
- 制作会社がすでに存在しない
- 管理者が社内にいない
- 仕様書や設計資料が残っていない
といった問題も併せて発生しています。
MT7のサポート終了は、それらの問題が「いよいよ無視できなくなった段階」に入ったと捉えるべきでしょう。
そもそもMovable TypeとはどんなCMSか
Movable Typeは、シックス・アパート社が開発するCMSで、静的ページ生成を基本とした設計思想が特徴です。
管理画面でコンテンツを更新するとHTMLファイルが生成され、公開側は静的ファイルとして配信されます。
この仕組みにより、
- サーバー負荷が低い
- 攻撃対象になりにくい
- 表示速度が安定しやすい
といったメリットがあり、長年にわたり官公庁や大企業のWebサイトで採用されてきました。
一方、WordPressは動的CMSとして発展し、プラグインによる高い拡張性と運用のしやすさで現在の主流となっています。
両者は「優劣」ではなく、設計思想が異なるCMSだと理解することが重要です。
Movable Type 7 サポート終了の影響
Movable Type 7は、すでにセキュリティサポートが終了しています。
サポート終了とは、単に「問い合わせができなくなる」という話ではありません。
具体的には、
- 新たに発見された脆弱性が修正されない
- 新しいOSやPerl、MySQLとの互換性保証がない
- サーバーアップデートができず、環境が固定化される
といった問題が発生します。
よくある誤解として
「今まで問題が起きていないから大丈夫」
という考えがありますが、問題が起きていない=安全ではありません。
攻撃は突然発生しますし、被害が表面化したときにはすでに「対応できない環境」になっているケースも少なくありません。
特に企業サイトや公共性の高いサイトでは、放置自体がリスクになります。
現場で、「問題がなく動いている」のにコストをかけてアップデートする理由は何か?という声を聴くことがあります。「問題がない」とは、まだ問題が生じていないだけで、リスクと隣り合わせの状態になっています。一度でいいのでアクセスのログを見てください。ドメイン下の存在しない/mt/や/wp/などのフォルダにアクセスしようとしている悪意のある者がいることが分かると思います。
Movable Type 9 の現状と進化
Movable Type 9は、MT7の後継として提供されている最新版です。
対応環境も現代的になり、長期運用を前提とした設計がされています。
主な特徴は以下の通りです。
- Perl 5.16.3 以上に対応(5.32 推奨)
- MySQL 8.0 系に対応
- 長期サポートを前提としたバージョン設計
- 管理画面・内部処理の安定性向上
MT9は、最新トレンドを追いかけるCMSではありません。
その代わりに「壊れにくく、長く使えるCMS」としてのポジションを明確にしています。
更新頻度が低いコーポレートサイトや、情報の正確性・信頼性が重視されるサイトでは、今でも十分に選択肢となります。
参考:シックスアパート社
https://www.sixapart.jp
Movable TypeとWordPressの比較
Movable TypeとWordPressは、しばしば比較されますが、用途を誤るとどちらも不満が出ます。
| 項目 | Movable Type | WordPress |
|---|---|---|
| 更新頻度 | 低〜中 | 中〜高 |
| セキュリティ | 比較的高 | 対策必須 |
| 拡張性 | 限定的 | 非常に高い |
| 運用の柔軟性 | 低め | 高い |
| 属人性 | 低 | 高くなりがち |
WordPressは、マーケティング施策やコンテンツ更新を積極的に行うサイトに向いています。
一方で、MTは「頻繁な更新を前提としない重要情報の公開」に向いています。
CMSは流行で選ぶものではなく、役割で選ぶものです。
古いMovable Typeサイトの現状調査ポイント
既存のMTサイトを今後どうするか判断するためには、まず現状を把握する必要があります。
調査すべきポイントは主に以下です。
- Movable Typeのバージョン
- 静的生成かダイナミック構成か
- 使用しているプラグイン
- サーバーOS・Perl・DBのバージョン
- 管理画面へのログイン可否
特に「誰も触れない」「担当者がいない」サイトほど、実はリスクが高い状態にあります。
現状調査だけでも、将来のトラブルを未然に防ぐ大きな価値があります。
Movable Typeは使い続けるべきか?
継続利用が向いているケース
- 更新頻度が年数回程度
- 会社概要・IR・採用情報が中心
- 表示速度・安定性を重視
- セキュリティを最優先したい
このようなサイトでは、MT9へのアップデートは非常に現実的な選択です。
WordPress移行が向いているケース
- ブログ・お知らせ更新が多い
- SEOや広告と連動した施策を行う
- 担当者が非エンジニア中心
- 外部ツールやサービス連携が多い
この場合は、無理にMTを延命させるより、WordPress移行のほうが運用コストを下げられることもあります。
現実的な選択肢は3つ
1つ目は MT7からMT9へのアップデート。
既存構成を活かしつつ、安全性を確保する王道ルートです。
2つ目は WordPressへの全面移行。
運用重視・マーケティング重視の場合に適しています。
※ただし、コストが高くなる場合が多いです。
3つ目は 役割分担型。
コーポレートはMT、オウンドメディアはWordPressといった構成も、実務ではよく採用されます。
重要なのは「どれが正解か」ではなく、自社サイトの役割に合っているかです。
Movable Type サポート終了に関するよくある質問
- Movable Typeはオワコンですか?
-
いいえ。Movable Typeは用途を限定すれば現在も有効なCMSです。特に更新頻度が低く、安定性やセキュリティを重視するコーポレートサイトや公共系サイトでは、今も採用されています。
- Movable Type 4・5・6 はもう使えませんか?
-
Movable Type 4・5・6 はすでに公式サポートが終了しており、セキュリティ更新も提供されていません。表示自体は可能でも、サーバー更新や脆弱性対応ができないため、継続利用は推奨されません。
- Movable Type 7はいつサポートが終了しましたか?
-
Movable Type 7は2025年11月にセキュリティサポートが終了しています。エディションや保守契約によって正確な時期は異なりますが、現在は新たな脆弱性対応は提供されていません。
- サポート終了後もMovable Typeを使い続けると何が問題ですか?
-
新たな脆弱性が修正されない、OSやPerlの更新ができない、サーバー移転やSSL更新で問題が発生するなどのリスクがあります。特に企業サイトでは、放置自体がセキュリティリスクになります。
- Movable Type 9にアップデートするメリットは何ですか?
-
Movable Type 9は現行のOS・Perl・MySQLに対応しており、長期サポートを前提に設計されています。既存のMT構成を活かしながら、安全性と保守性を確保できる点が大きなメリットです。
- Movable TypeからWordPressへ移行した方がよいケースは?
-
更新頻度が高いサイト、SEOや広告と連動した施策を行うサイト、非エンジニアが日常的に更新するサイトでは、WordPressの方が運用しやすい場合があります。
- 静的生成のMovable TypeはSEOに不利ですか?
-
いいえ。静的生成自体がSEOに不利になることはありません。むしろ表示速度や安定性の面では有利に働くことも多く、コンテンツ品質や構造が重要です。
- 自社サイトのMovable Typeのバージョンが分からない場合はどうすればよいですか?
-
管理画面へのログイン可否、生成されたファイル構成、サーバー内のmt-config.cgiなどを確認することで判別できます。分からない場合は、専門業者による現状調査を行うのが安全です。
まとめ|放置しないことが最大の対策
Movable Typeは決して時代遅れのCMSではありません。
しかし、放置されたMovable Typeは確実にリスクになります。
- 現状を把握する
- 役割を整理する
- 継続・移行を判断する
この3点を行うことが、今もっとも重要です。
CMSは「流行」で選ぶものではなく、「目的」で選ぶもの。
Movable Type 7サポート終了は、その判断を迫られているサインと言えるでしょう。
